北井和代の短歌世界 牛島の藤

 

牛島の藤の香りに包まれて令和の年の幸せ祈る

その樹齢四百年とぞ大藤の揺るる花房ただに見上げつ

蜜蜂は花粉に足を太くして忙しく飛べり藤のあはひを

亡夫祀る明箸堂の奥の扉の今し開かれ居合せる幸

十五年幾度参りしか初めての開きし扉に胸熱くなる

快晴の大谷本廟明箸堂すがしき風の吾を包みぬ

元旦もラジオ体操休まずに三日月明星眺めて行きぬ

体操を終へて急ぎし初日の出わが干支に健康祈る

振り向けば雪の富士山薄紅に染まりて行くを眺めて拝す

初日の出拝して振り向く富士の山神神しくも紅色に染まる

厳かに初日の出拝し仰ぎ見る雲一つなき空に残月白し

温度差のはげしき日々にこの朝は一面白き雪におほはる

快晴の大宮公園の梅まつり老若男女子等で賑はふ

梅まつりの大宮公園賑はひて辺りに露店の匂ひただよふ

春風に舞ひ散る花弁そっと受く優しく淡きその紅を

梅まつりに友の教への押し花展黒きリボンの友の作もあり

梅まつり友に教はり押し花のハガキ・栞を楽しく作る

「古代蓮の里」へと行田市生かしたりふるさと創生一億円を

眠りから覚めたる紅の「古代蓮」行田の地にて可憐にひらく

花開く音かとハッと振り向くに蓮の立ち葉の玉露が落つ

紅のほころびかけし蓮の花のほのかなる香に我が身洗はる

さまざまな色や花弁の数違ふ四十二種類のハスに感動す

大輪の真っ赤なバラは「イナローズ」鮮やかに咲き香りも豊か

ピンク色の数多花つく「イナ姫」の香りやさしく蜂のごと寄る

着飾りて若きら歩む今日の日に小江戸の町は和服が似合ふ

蔵造りの町歩みつつ昼食は蔵造りの店我らは選ぶ

川越の七福神をめぐれるにそれぞれ異なる水琴窟の音

わが杖に赤き福だるま付けられて気をつけ気をつけ見守る如し

護国院は上へどうぞと大黒様を拝見出来て福豆戴く

花の丘に新郎新婦は衣裳着て七五三のごと先撮りするとぞ

色紙もち朱印受けむと来し谷中の七福神は期日過ぎをり

二荒山神社参拝終へて拝殿の周りのそれぞれの七福神拝す

病気身代り祈りて貼らるる赤紙のあまた東覚寺二体の像は

食卓に枝つき柿を花器に生け礼の絵手紙わくわくと書く

畦道に敷けるばかりにつくし生ゆ土筆誰の子と歌ひつつ摘む

在りし日の思ひ出名簿に数多見ていつしら校歌の口遊びをり

届きたる野菜を包む新聞の故郷版にしばし読みをり

届きたる山椒の実を佃煮に祖母偲びつつ厨に立ちをり

金鵄なる校旗なつかし吾が母校大和平野に百六年経て

物故者の中に見つけし仲の良き同級の名に愕然とする

届きたる名簿なつかし久々に関西弁にて友と語りぬ

憲兵とふ仇名付きたる九十路の師は健在と聞きて安堵す

戦勝の記念に植ゑし冬桜平和なる世の国の名勝

三波石と共に名高き冬桜七千本の可憐な花よ

一重なる可憐な花弁の冬桜莟も数多春と二度咲く

久々に都電に乗りてそはそはと一喜一憂童のごとく

芽吹きたる若木の根元に一輪の小さきタンポポ春よとひらく

庭園に水細くながれ鹿威しの清しき音のをりをり響く

元総理の細川氏とのたまたまの出会ひに笑顔の握手は温し

昆布〆の平目のサシミは鯛よりもうましと思ふ友の手料理

ほんのりとバラの香りのアイスクリーム木陰に友と花眺めつつ

母の日に戴く花の鉢植は年々増えてベランダ華やぐ

男の孫の誕生日祝ふメール打ち楽しき絵入りの返事をもらふ

男の孫の生れしその年逝きし夫に見せてあげたし成人式を

夫在せば如何に思ふらむ初孫の成人式の和服姿に

ウインドウに成人式の女の孫の写真飾られ通りつつ見る

塩原の紅葉真っ只中をゆく歓声あげつつドライブしをり

塩原の宿より見る風景は四方八方紅葉めぐらす

もみじ谷の大吊橋は恐々とあたりの景色横目に渡る

大吊橋渡れば目に入る真赤なるもみぢ欅と雄大な景

牧場でガーンジイ牛の牛乳を円やかな味ホットで飲む

奥塩原の日本最大級といふゆり博に友と花を楽しむ

白樺とゆりの花とのコントラストその素晴しさにしばし見惚れる

ゆりの花巨大タワーを飾りたる四千輪に目を見張りをり

あまた飛ぶ赤トンボにそっと出す人差指にしばし止まれり

咲きほこるゆりを眺めて食むソフトほんのり香り喉をうるほす

さはやかな奥塩原の高原の星空眺め温泉に浸る

奥塩原色づき初めし紅葉ラインうっとり眺め癒されてをり

クラシックな日光駅を車窓に見心洗はるる神橋につく

アニメにて陽明門に家康の少年・青年期よりの生涯を知る

関ヶ原の戦ひに着用の南蛮胴具足の細工は精巧なりき

神秘的な雰囲気漂ふ湯ノ湖にて釣り船ボートぽつんと浮かぶ

早朝の庭の葉ボタンキラキラとダイヤの如く露光りをり

病院のベッドの上はイヤホンに社会の出来事耳のみで知る

転院し一夜明けたる窓に見ゆ木の間飛びかふ小鳥二、三羽

飲めるなら飲んで酔ひたし窓下に紅淡く酔芙蓉咲く

睡り浅き朝の目覚めに我を見るローランサンの少女微笑む

揚羽蝶ふたつもつれて飛ぶ畠の夕映のなかわが影うつる

鯱に触れたき思ひ二時間余お城巡れる列に加はる

薄々と空明けくれば今井浜の打ち寄する波ピンクに変る

今井浜のホテルに続く砂浜の小さき風紋いとほしく見ゆ

一瞬のオオムの足裏に触れし時見掛によらず柔らかなりし

吾好みの淡きピンクの薔薇ジュース仄かな香り喉元過ぎゆく

登り行くケーブルカーのトンネルに刃物に見ゆる数多の氷柱

女体山山頂に立てば関東平野三百六十度展望の春

筑波山の奇岩怪石を巡りつつ付けたる名前の味はひ深し

さはさはと風のみ聞ゆ筑波嶺を心爽やかに友と下りをり

どこまでも続く桜の並木道薫風受けて自転車漕ぎゆく 

枝先ははるかに高く天を向き端正な並木メタセコイアは

公園のメタセコイヤの並木道手足のばして深呼吸する

並木道のメタセコイヤの木の影に風はすがしも吾を包みぬ

仰ぎ見るメタセコイヤの梢たかく日の光さし青空を刺す

日本一の大ケヤキある東根小童らわれにパンフレットくるる

大ケヤキの大注連縄は六年生の育てし稲にて子等の作品

星空を見上げて浴する露天風呂手術のあとも癒される思ひ

鈴なりのさくらんぼの木心おどらせ口に籠にと童のごとし

おほらかな泰山木の白き花見上げて祖母の声よみがへる

快晴の空にふんはり白き雲親子の犬か楽しげに見ゆ

膝をつき一人ひとりの手を取りて励ます天皇皇后尊し

病院の洗濯たたみのボランティア永きに渡りと緑綬褒章受く